冬枯れの枝に抱かれし、コンクリートの夢

斜里の森深く、青空へと伸びる巨大なコンクリートのアーチ。それは、旧国鉄根北線越川橋梁。完成を待たずに時が止まったこの橋は、北海道の開拓と戦時下の歴史が刻んだ静かな証。枯れ枝の織りなす繊細な網目越しに、橋は今も悠然と空を仰ぐ。
高さ21.7m、延長147mに及ぶその姿は、北海道最大のコンクリート鉄道橋として、今もなお威厳に満ちている。10連のアーチが描く優美な曲線は、人工物でありながら周囲の自然と不思議なほどに調和し、まるで太古からそこにあったかのような錯覚すら覚える。

根北線は、知床半島の基部を横断し、北見地方と根室地方を結ぶ壮大な計画だった。1938年に着工され、この越川橋梁(当時は第一幾品川橋梁)は1940年に完成を見た。しかし、戦時下の混乱により工事は中断。橋は一度も列車を通すことなく、静かに歴史の証人となった。
橋の特徴は、戦時下の資材不足を反映した無筋コンクリート造りにある。鉄筋を使用しない構造は、当時の土木技術者たちの叡智と工夫の結晶だ。さらに、この橋の建設には「タコ労働」と呼ばれる過酷な労働が強いられた。今も残る殉難者の記録は、この地に刻まれた苦難の歴史を物語っている。
1973年、国道の改良工事により2本の橋脚が撤去された。しかし、その姿は今なお雄大で美しい。四季折々に表情を変える周囲の自然に溶け込みながら、越川橋梁は静かに時を刻み続ける。1998年、この橋は国の登録有形文化財となった。

旧国鉄根北線越川橋梁は、過去と現在、人工と自然、夢と現実が交錯する特別な場所。訪れる人の心に、静かな感動と深い思索をもたらす北海道のひそかな絶景である。
アクセス情報
斜里町市街地から車で約30分 正確な位置:北海道斜里郡斜里町字越川245番8他
国道244号線沿いに駐車帯があり、容易にアクセスできる。
国道をまたいで両側に橋脚跡がある。